カヴァレリア・ルスティカーナ、あるいはゴッド・ファーザー3
リンカーンセンターの正面奥に、メトロポリタンオペラハウスはあります。
昼間、噴水越しにその建物を見ると今晩の出し物を想像して心が騒ぎます。
夜、暗い中に照明に浮かぶ姿は舞台のオーケストラが聴こえてきそうです。
私はニューヨーク滞在中は必ずオペラのシーズンチケットを買います。全ての演目を見ることはできませんが、選択の中心となるのはいつもこのカヴァレリア・ルスティカーナです。
作曲者はピエトロ・マスカーニ、1890年の作品です。演奏時間はオペラにしては非常に短い70分ほどの1幕ものであるため、私がこれまで観劇したものは全てレオン・カヴァルロの「道化師」と合わせて上演されています。
このオペラは、イタリアの出版社の行ったコンクールの受賞作です。課題が1幕ものであったためこのような形式になったのですが、途中に間奏曲があることで有名です。
オペラを知らない方や、見たことのない方でもこの間奏曲は聴いたことがあるに違いありません。
間奏曲とゴッドファーザー3
映画「ゴッドファーザー」のお好きな方であれば、パート3でマイケル(アル・パチーノ)の娘メアリー(ソフィア・コッポラ)が凶弾に倒れる場面で流れる曲といえばわかるはずです。
私はゴッドファーザーで英語の勉強をしましたから、ストーリーはパート1から3まで、全てほぼ記憶しています。シャドーイングの練習にとても適した作品で、マリオ・プーゾの原作も読みましたが、映画が断然良いと思います。やはり映像の刺激は文章より強烈です。
パート1とパート2で、ほぼこの物語は完結していますが、唯一マイケルの最期を描写していませんでした。
パート3を作ることになり、イタリア・シシリー島に舞台を求めたのは必然であると思います。私はイタリアはまだ行ったことがありませんが、秘境系のツアー会社で南イタリアは大人気です。その愁眉を開くのがシシリーのパレルモにあるマッシーモ・オペラハウスです。
前半でマンハッタンの高層ビルでマイケルとメアリーが語るシーンがあります。私の住んでいたコンドミニアムが一瞬映ります。
前半はマイケルの苦悩が描写されます。なぜ?と思いつつ、後半の舞台シシリーに移ってから、物語は緊迫感が増します。
マイケルの息子は、父の跡を継いで表舞台のビジネスマンになることを拒み、オペラ歌手の道を選びます。
その記念すべきデビューの舞台がシシリーであり、演目はカヴァレリア・ルスティカーナです。
この曲で圧倒的に有名なのが間奏曲です。
私はいつもチェロで旋律を弾きます。抑揚をつけず、ビブラートもできるだけかけずに弾きます。チェロの共鳴する音だけで、どれだけ表現できるか、練習しています。表情を付ける際に、よく言われるのはできるだけ長い小節で長く歌うことを指摘されることがあります。
ちょうど、ベートーヴェンの交響曲第9番の4楽章で、レチタティーボのあとでチェロとバスが歓びの旋律をピアニッシモで奏でるときと似ています。
楽器を鳴らすのは難しいです。しかし、このカヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲を抑揚つけずに長い旋律で歌う訓練は、とても重要です。
朗々と歌わず、抑揚をつけず、シンプルに旋律を奏でます。
なんどもチェロだけで旋律を弾いていると、自然とオペラの音楽がなってきます。あたかも、オーケストラが伴奏しているようです。
そこまで歌いこんで、さあ、オペラを見に行きましょう!
座席はいつもの屋根裏です。開幕前のざわめきが興奮を高めます。
開演のブザーがなると、1階席のやや上、と言っても私の目線からははるか下を照らしていた特大のシャンデリアが引き上げられます。
それを見とれていると、最上階の私の目の前で止まるのです。
いつもの光景ですが、ちょっとおかしい。嬉しくなります。
さあ、楽しい時間の始まりです!
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