From the New World(新世界より)

ドヴォルザークの作品でもっとも有名なものの一つである交響曲第9番は副題があり、From the New World(新世界より)と言います。これはニューヨーク・ナショナル音楽院の院長として招かれたドヴォルザークが、当時の新興国アメリカの印象と、故郷チェコへの憧憬をモチーフに、1893年に作曲した最後の交響曲です。

第1楽章の冒頭は、チェロが印象的な旋律をピアニッシモで奏でます。自分の母国がどこであれ、遠くニューヨーク・マンハッタンの港に船で到着した時の印象を歌ったものではないかと私は思っています。突然ホルンが時空を引き裂くようなフォルテで現実に引き戻します。するとすぐにフルートなどの木管楽器が冒頭の旋律を重ねます。ニューヨークに到着した印象が強まっていくに従って、主旋律が現れて交響曲は展開していきます。

第2楽章は、日本では「家路」で有名な感傷的な旋律が泣かせます。オーケストラ奏者も、ステージの上で「遠き山に 陽は落ちて」と声に出さずに歌っています。この曲でイングリッシュホルンという楽器を初めて知りました。決してチャルメラではありません。オーボエ首席奏者がこの曲を演奏するときは2番オーボエでイングリッシュホルンを持ち替えることがありましたが、最近の演奏ではイングリッシュホルン奏者を別に設けることが多いようです。

第3楽章のスケルツォは、チェコらしいというか、日本人が普通にノリノリで演奏するとド演歌になってしまうので要注意です。特にビオラ奏者はあえて抑揚をつけずに演奏することが求められます。機会があれば、あまりお上手でないアマチュア・オーケストラの新世界を聴いてみることをお勧めします。きっと聴いていて恥ずかしくなりますよ。

さて、いよいよ第4楽章です。金管楽器が大活躍で、ブラス奏者は血湧き肉躍ることでしょう。カッコいい!と私はチェロを弾きながら思っています。フルブラスがフォルテッシモで咆哮すると、チェロは10人寄っても敵いません。途中にチェロが印象的なパートソロを演奏しますが、まあブラスの引き立て役です笑。

自分でも新世界は何度も演奏しましたが、演奏者にとっても楽しい曲です。また世界的なプロオケの演奏を聴くと、指揮者の解釈の違いによっても印象が変わって興味深い曲です。

そして演奏後のアンコール曲は、第2楽章をもう一度演奏するのが好きですね。こればかりは指揮者の意見が大きな比重を占めることがあり、スラブ舞曲になることもありますけれど。

さて、この曲は不思議なところがたくさんあります。

例えばチューバです。出番は2楽章のコラールの部分だけなんですよ。ブラス大活躍の4楽章はお休み。なぜ?

そしてシンバルです。全曲を通して、4楽章でコツン!と1発叩くだけです。なぜ?

シンバル奏者かわいそうだろ?と思います。倉本聰が脚本を書いたドラマを私はリアルタイムで見ました。フランキー堺がプロオケのシンバル奏者で、そのたった1発を緊張して失敗するかわいそうな役でした。いや、プロは失敗しないだろ?でも失敗して演奏しなくても、誰も気づかない、というのがオチですね

この曲を好きになると、必ず交響曲8番も好きになります。そして演奏したくなります。チェロ奏者にとっては8番の方が活躍できますね。1楽章と4楽章の旋律は、それほど難しくなくていわゆる美味しい曲です。

7番も演奏したことはありますが、ちょっと地味です。そこまでいったら5番も演奏しちゃいたいところですが、私はまだ演奏したことはありません。のだめカンタービレで取り上げてました。よく考えてあるなあと感心しました。

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