第九を演奏する。

チェロを10歳から弾いていて、そしてチェロ奏者としてオーケストラ活動をしていて、これまでに感動した楽曲はたくさんありましたし、これからもそうでしょうが、現時点でベストは第九です。

もちろんベートーベンの交響曲第9番合唱付きのことです。

交響曲という形式を確立したのはハイドンとモーツアルトですが、それを昇華したのは紛れもなくベートーベンです。

その後のシューベルト、ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン、リヒャルト・シュトラウス、ドヴォルジャーク、そして一つの到達点と言えるマーラーに至る系譜は、その基礎は私個人の意見としてベートーベンにあると思えるのです。

彼の交響曲は、1番から最後の9番まで、どれもその特徴が非常に鮮明です。

特に有名なのは3番、5番、6番、7番、9番なのでしょう。

3番は「英雄」と命名されています。

英雄とはナポレオンのことです。

5番は「運命」と呼ばれます。

最初の印象的な主題は、まさに「運命はかく扉を叩く」のでしょう。

6番は「田園」です。

自然の情景の優しさ、荒々しさなどをこれほど美しく描写できるのだな、と心から納得します。演奏していると、各パートの細かい旋律が全体としてこんな風に自然情景を描写できることに驚きます。

7番は、「のだめカンタービレ」で有名になりましたね。

リズムだけでこれほど素晴らしい交響曲ができるんですね。

さて、9番です。

1楽章は、ものすごく単純な構成です。最初の弦楽6連譜は、はっきり言って聞こえません。でも演奏しているのですから、音楽としてはもう始まっています。

それがあれほど壮大な楽曲になるのです。

そして3楽章です。

ソリストが入場する都合で、3楽章と4楽章はアタッカ(休符なし)で入ることが多くあります。それが自然なように思います。

ということは、3楽章と4楽章は一体のものです。

何も知らずに3楽章を聴くと、ただ静かな、眠りを誘う音楽のように思います。

ところが何回もこの楽章を聴いている(弾いている)と、天上の音楽のように思えるのです。

そして4楽章です。

冒頭、チェロのレチタティーボがあります。

レチタティーボとは、やや古いオペラで、セリフと歌うときに旋律がなく、伴奏で自由に歌うことを言います。

もちろんここでは旋律(楽譜)がきちんとあります。

それを前振りとして、歓喜のテーマを、ほぼ聞こえない音量でチェロとバスが歌い上げます。

この歓喜の旋律は、わずか1オクターブの範囲でこれほど美しい旋律が作れるのか、と感動するほどのものです。

その後、突然激しいフルオーケストラの咆哮があり、そしてテノールが「歓喜の歌」を高らかに歌い上げます。

おお友よ、この歌でなく!

という歌詞は驚きます。

この歌を歌いたいだけのために、私は中学生でドイツ語を学びました。

単純に音だけを捉えるなら、若い方が覚えますね。